紀文きぶん)” の例文
奈良茂ならも紀文きぶん難波屋なんばや淀屋よどやなどという黄金こがねの城廓によるものが、武人に対立しだしている。小成金しょうなりきんはその下に数えきれないほど出来た。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはそれとして、日本の上流社会の一番ドエライところを代表したのがこれ位のところで、紀文きぶん奈良茂ならもの昔語りよりも大分落ちるようである。
今の世に何人なんびとの戯れぞ。紀文きぶん杯流さかずきながしの昔も忍ばるるゆかしさと思うもなく、早や二、三そうの屋根船が音もなく流れて来て石垣の下なる乱杭らんぐいつながれているではないか。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
同様にまた紀文きぶん大尽の成金は詩的であって、安田善兵衛の勤倹貯金はプロゼックだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
さはあれ、このお嬢様、べつに女紀文きぶんを気どる次第でもなく、厭味いやみな所もさらさらない。ただこうした色彩の雰囲気ふんいきにつつまれているのがわけもなく面白いのであるらしい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現在千八百石を給されているが、日常、柳沢吉保の豪奢なる生活を見たり、元禄の世態の中に、紀文きぶんや名もない成金町人なりきんちょうにんなどの暮しぶりを見るにおよんでは、いよいよかれの不足は大きかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)