精一杯せいいっぱい)” の例文
彼女には自分が津田を精一杯せいいっぱい愛し得るという信念があった。同時に、津田から精一杯愛され得るという期待も安心もあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お松は精一杯せいいっぱいにこのことを主張します。番頭と小僧はさげすむような面をして二人を見ていますのを七兵衛は
それが精一杯せいいっぱい復讐ふくしゅうをしようとして、そんな風に私のジャケツをみ破ったかのようにさえ私には思えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すぐそばにいながら、モニカも吉之丞も、よほど前から口をきかなくなっていた。朝々、まだ生きていることを知らせるために、眼でうなずきあうのが精一杯せいいっぱいのところである。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こうした悪意に対して、ぼくは、それを、じっと受けこたえるだけで、精一杯せいいっぱいでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
かつて英国にいた頃、精一杯せいいっぱい英国をにくんだ事がある。それはハイネが英国を悪んだごとく因業いんごうに英国を悪んだのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして君そう早く来たっていけないという様子がその裏に見えたので、敬太郎は精一杯せいいっぱい言訳をする必要を感じた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「延子さんはずいぶん勝手な方ね。御自分ひと精一杯せいいっぱい愛されなくっちゃ気がすまないと見えるのね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その声は距離が遠いので、はげしく宗助の鼓膜を打つほど、強くは響かなかったけれども、たしかに精一杯せいいっぱい威をふるったものであった。そうしてただ一人いちにん咽喉のどから出た個人の特色を帯びていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)