窈然ようぜん)” の例文
一が去り、二がきたり、二が消えて三が生まるるがためにうれしいのではない。初から窈然ようぜんとして同所どうしょ把住はじゅうするおもむきで嬉しいのである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この時館の中に「黒し、黒し」と叫ぶ声が石堞せきちょうひびきかえして、窈然ようぜんと遠く鳴る木枯こがらしの如く伝わる。やがて河に臨む水門を、天にひびけと、びたる鉄鎖にきしらせて開く音がする。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しまいには遠き未来の世を眼前に引きいだしたるように窈然ようぜんたる空のうちにとりとめのつかぬ鳶色とびいろの影が残る。その時この鳶色の奥にぽたりぽたりと鈍き光りがしたたるように見え初める。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
普通の同化には刺激がある。刺激があればこそ、愉快であろう。余の同化には、何と同化したか不分明ふぶんみょうであるから、ごうも刺激がない。刺激がないから、窈然ようぜんとして名状しがたいたのしみがある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)