窅然ようぜん)” の例文
妖魔ようまの眼のように窅然ようぜんと奥のかた灰暗ほのぐらさをたたえている其中に、主客の座を分って安らかに対座している二人がある。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
負えるあり、いだけるあり、児孫じそんを愛するが如し。松のみどりこまやかに、枝葉しよう汐風しおかぜに吹きたわめて、屈曲おのずからためたる如し。そのけしき窅然ようぜんとして美人のかんばせよそおう。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さねかずらとはどんなものかしらず、つたいでる崖に清水したゝって線路脇の小溝に落つる音涼し。窓より首さしのべて行手を見るに隧道ずいどう眼前に窅然ようぜんとして向うの口ぜにのまわりほどに見ゆ。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして夜半に往って窺いてみると窅然ようぜんとしていなかった。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これこそ彼の岩窟いわやならめと差しのぞき見るに、底知れぬ穴一つ窅然ようぜんとして暗く見ゆ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)