硝子板ガラスいた)” の例文
沼の底は、これもどんより曇って、幾枚もの硝子板ガラスいたを合したように、ある蔭はちぢみ、あるものは細長くなって見えました。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
窓には硝子板ガラスいたなんてものが一枚も入っていなかった。板で作った戸はあったけれど、閉めてなかった。この窓から、あの蠅が飛びこんできたのに違いない。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
窓の戸のあいている時や、またその硝子板ガラスいたの割れ落ちている時には、ぶら下った衣裳のあいだから池のふちの木のこずえと、池の向うの興行場の屋根とが見える……。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
はや冬のやうに、透明凛烈の青みどろに澄みわたり、乾きわたつてゐる虚無の中に、鋭角線を引き飛ばして、強い鋼筆で、透明な硝子板ガラスいたに傷をつけたやうに、劃然と大波を打つてゐる。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「確かに、こちらを呼んでいるのですね。あれは、硝子板ガラスいたを応用した閃光通信せんこうつうしんです。おい通信兵、頼むぞ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小舷こべりを打つ水の音が俄に耳立ち、船もまた動揺し出したので、船窓から外を見たが、窓際の席には人がいるのみならず、その硝子板ガラスいたは汚れきってすり硝子のように曇っている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)