眸子ぼうし)” の例文
雪白の冷たい石龕せきがんの内に急に灯がともされたように、耳朶は見る見る上気して、紅玉色に透り、漆黒しっこく眸子ぼうしは妖しい潤いに光って来る。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
既にして群集ぐんじゆ眸子ぼうしひとしくいぶかしげに小門の方に向へり、「オヤ」「アラ」「マア」篠田長二の筒袖姿忽然こつぜんとして其処に現はれしなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昔の人は人に存するもの眸子ぼうしより良きはなしと云ったそうだが、なるほど人いずくんぞかくさんや、人間のうちで眼ほど活きている道具はない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「はあ、そうでしたか」と云ったぎり、小野さんはじ上げた五分心ごぶじんの頭を無心にながめている。浅井の帰京と五分心の関係を見極みきわめんと思索するごとくに眸子ぼうしは一点に集った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)