目前めのさき)” の例文
よく切れます……お使いなさいまし、お間に合せに。……(無遠慮に庖丁を目前めのさきに突出す。)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
涼しさが身に染みて、鐸か、声か、音か、ひぐらしの、と聞きまがうまで恍惚うっとりとなった。目前めのさきに、はたと落ちた雲のちぎれ、鼠色の五尺の霧、ひらひらと立って、袖擦れにはっと飛ぶ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南無三宝なむさんぽう! 私は恥を言おう。露に濡羽ぬればの烏が、月のかつらくわえたような、鼈甲べっこう照栄てりはえる、目前めのさきの島田の黒髪に、魂を奪われて、あの、その、旅客を忘れた。旅行案内を忘れた。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)