百目蝋燭ひゃくめろうそく)” の例文
広い家の隅々にまで百目蝋燭ひゃくめろうそくを立てつらねて、ひとりつくねんと待っていると——風が出たか、古いたるきがみしと鳴ったりしてなんとも物凄いようだ。
見附みつけのわきまでゆくと、まっ黒に人がたかっていた。蓆掛むしろがけの中に百目蝋燭ひゃくめろうそくの明りがゆらいでいる。太平記読のしわがれた声が内から大勢のあたま越しに聞えてくるのだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
動揺どよめき渡る見物は、大河の水をいたよう、見渡す限り列のある間、——一尺ごとに百目蝋燭ひゃくめろうそく、裸火をあおらし立てた、黒塗に台附の柵の堤を築いて、両方へ押分けたれば、練もののみが静まり返って
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこここの百目蝋燭ひゃくめろうそくかげには、記念の食事に招かれて来た村の人たちが並んで膳についている。寿平次はそれを見渡しながら、はし休めの茄子なす芥子からしあえも精進料理らしいのをセカセカと食った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
灯りが何よりの命とあって、泰軒の出現と同時に、気のきいた誰かが燭台を壁ぎわへ押しやって百目蝋燭ひゃくめろうそくをつけ連ねたので、まるで昼のようなあかるさだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)