物象ぶっしょう)” の例文
とかく物象ぶっしょうにのみ使役せらるる俗人は、五感の刺激以外に何等の活動もないので、他を評価するのでも形骸以外にわたらんのは厄介である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが事実は、彼ひとりで、そういう物象ぶっしょうが物ののように消えてしいんと大広間に、友禅の夜具をかけられて、死骸のように寝ていたのである。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの爛漫らんまんたる桜花と無情なる土塀と人目を忍ぶ少年と艶書えんしょを手にする少女と、ああこの単純なる物象ぶっしょうの配合は如何いかに際限なき空想を誘起せしむるか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昨日開いた第一回目の知らせには「君は今寄宿舎の自室に居る。机の上には物象ぶっしょうの教科書の、第九頁がひらいてあり、その上に南京豆が三粒のっているだろう」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「しかしだ、たとえ幽霊やお化けが今実在するにしてもだ、その幽霊やお化けは、かならずぼくらの習っている物象ぶっしょうの原理にしたがうものでなくてはならない」
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)