無花果いちぢく)” の例文
そして今主人の何か言ふのに耳を傾けながら、ピエンツアの無花果いちぢくの一つを取つて皮をむいてゐる。己はその汁の多い、赤い肉がひどく好きなのだ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
バグダツドの市場いちばの噴きの上には大きい無花果いちぢくが葉を拡げてゐます。その噴き井の右ゐるのはハアヂと名乗つた先刻の商人、左にゐるのは水瓶みづかめをさげた、美しい一人ひとりの娘です。
三つの指環 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
枇杷の実が次第に色付いて、無花果いちぢくの葉裏にはもう鳩の卵ほどの実がなつて居た。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何時か、秋の白馬はくばへ登つた時、案内の人夫が教へてくれた山の木の実である。なつめと無花果いちぢくとをいつしよにしたやうな、ちよつと舌を刺す不思議な味のものだといふことを覚えてゐる。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
楓、桜、梅、檜葉、梔子くちなし無花果いちぢく、沈丁花、椿など、雑多な樹木で、熊笹の数株まで添えてありました。清水恒吉は全く快心の笑みを浮べ、真作と二人で、それを庭のあちこちに植えました。
無花果いちぢくを盛つたかごを携へた男が通され、その籠の中に毒蛇が隠されてあつて、それに腕(胸といふ説もある)を噛ませて自殺したといひ、他の説によると、女王はかねて花瓶の中に毒蛇を飼つて置き
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
ああのべつ幕なしに甘いもの——名物こんぺいとう・乾し無花果いちぢく水瓜すいかの皮の砂糖煮・等等等——を頬ばっていられるわけがなかったし、そのため、今にもぱちんと音がして破けそうに肥っていたが
無花果いちぢくが紫色に熟してゐた
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
笑ふためにも歌ふためにも、ジエンツアノの葡萄酒を飲むためにも、ピエンツアの無花果いちぢくを食ふためにも、その外の事をするためにも、永遠に開く時は無い。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)