火華ひばな)” の例文
手が、そこまでゆかない間に、盆を捧げている伊織の眼と、彼の眼とが、かちっと、火華ひばなを発したように、出会ったのであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昏倒しそうな衝動が慎作を一種の無感覚に誘ったが、次の刹那せきを切った怒濤の様なものが、爆発した火華ひばなの様なものが、全身を狂い廻った。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
ポートサイドの町々は電燈の火華ひばなに装飾されて、龍宮城のように美しくなった。だから、勿論、水夫合宿所の室々へやべやの窓からも燈火の光が、さも愉快そうに射し出ていた。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼とクロイゲルとのこの家での漫然とした微笑は、ヨーロッパのある両極が丁丁ちょうちょう火華ひばなを散らせた厳格な場であった。恐らくそれは常人と変らぬ義理人情のさ中で行われたことだろう。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
じっさいの屋島合戦はわずか三日の火華ひばなにすぎない。将棋ばかりでなく、敗れるものが、敗れ出すと、じつにその敗亡はいつも無常迅速である。けれど、せつなの前には、長い用意の前提がある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、伊織の幼い精神の中にも、鏘然しょうぜんと、火華ひばなが発しるのだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)