瀟々しょうしょう)” の例文
瀟々しょうしょう、外の雨声ばかりで、寒室のしょくは、油も凍るか、いとど火色も細い。火の気といっては、家康の側に、手炉しゅろ一つあるきりだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、その数日前から降りつづいた秋雨がなおも降り止まず、瀟々しょうしょうと病室の縁側の硝子ガラス障子に打ち煙っている日であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
遠雷のような汐鳴しおなりの音と、窓を打つ瀟々しょうしょうたる雨の音に、私がぼんやり目を覚ましたのは十時頃だったろうか、コロロホルムの酢のような匂いが、まだ部屋中に流れているようで
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
秋雨瀟々しょうしょうと降りしきる一日、ベルギーの古都ブリュージュを訪れて、風情に富む縦横の堀割に沿うて雨を賞しながら、灰白の空を支うる寺院の奥に香の煙の揺曳するのを眺めながら
雨の日 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
秋雨瀟々しょうしょうけても降り止まなかった。
瀟々しょうしょうと外は間断なき雨の音だった。こんな時は鬱気うっきを退治して大いに快笑するに限ると、龐徳は友を引きとめて酒など出した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、眼のあくたびに、瀟々しょうしょうと、雨の音ばかり耳についた。そして夜はなかなか明けてこなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霧まじりの冷たい風が、もう、越後境の山々から、瀟々しょうしょうと秋をよろいの袖に告げてきた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)