濁声だみごゑ)” の例文
旧字:濁聲
「馬車が出ます/\」と、炉火ろくわようしてうづくまりたる馬丁べつたう濁声だみごゑ、闇のうちより響く「吉田行も、大宮行も、今ますぐと出ますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
其時例の濁声だみごゑ出し、喧しいはお浪、黙つて居よ、我の話しの邪魔になる、親方様聞て下され。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
壁一重の軒下を流れる小堰こぜきの水に、蝦を掬ふ小供等の叫び、さては寺道を山や田に往返ゆきかへりの男女の暢気のんき濁声だみごゑが手にとる様に聞える——智恵子は其聞苦しい訛にも耳慣れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
階子段の上から帳場に向けて、註文をとほす金切声の間に、かういふ店の客に似合はしいやうな、書生上りの匂ひのからまり付いた濁声だみごゑがこゝを先途とがなり立てられてゐた。
(新字旧仮名) / 有島武郎(著)
火光あかりまばゆく洩れて、街路みちを横さまに白い線を引いてゐたが、虫の音も憚からぬ酔うた濁声だみごゑが、時々けたゝましい其店の嬶の笑声を伴つて、喧嘩でもあるかの様に一町先までも聞える。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)