潸々さめざめ)” の例文
唯一度私が小さい桶を担いで、新家の裏の井戸に水汲に行くと、恰度其処の裏門の柱に藤野さんが倚懸よりかかつてゐて、一人潸々さめざめ泣いてゐた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
台所には蕗子の妹で十三か四になる艶子つやこが、近所の内儀おかみさんたち二三人に囲まれて、畳に打伏したまま潸々さめざめと泣いていました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
日本の其のわかい人は、今の鸚鵡の一言ひとことを聞くか聞かないに、やりをそばめた手も恥かしい、ばつたりゆかに、俯向うつむけに倒れて潸々さめざめと泣くんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ドルの報酬を得てホテルに駈込かけこんだ時には、食卓にむかった誰れもかれも、嬉し泣に、潸々さめざめとしないものはなかったという。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お孝の彼を抉った手は、ここにただ天地一つ、白きくちなわのごとく美しく、葛木の腕にまつわって、潸々さめざめと泣く。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其中には村端の掘立小屋の娘もあつて、潸々さめざめ泣いてゐたが、私は、若しや先生は私にだけ証書を後で呉れるのではないかといふ様な、理由もない事を心待ちに待つてゐた様であつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)