潜在せんざい)” の例文
徳川時代の狂言きょうげん作者は、案外ずるく頭が働いて、観客の意識の底に潜在せんざいしている微妙びみょうな心理にびることがたくみであったのかも知れない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
加奈子はいつか、或る人から人間の潜在せんざい意識に就いて聞いたことがあった。過去に於ける思いがけない記憶までが微細に人間の潜在意識界へは喰い入っている。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なにしろその出生前に、父親の頭の中に潜在せんざいしていた反抗意識が、影印えいいんしているとすると父親の責任だ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
欲張よくばばあさんは、みずから化物ばけもの葛籠つづらの中に潜在させたから、ふたを開くとともに醜怪しゅうかいなものがあらわれだし、正直しょうじきじいさんは宝物ほうもつ潜在せんざいさせたから、なかからあらわれ出たのがすべて財宝であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)