たま)” の例文
するとその中の幾匹かが、これはたまらないと言ったふうに、大急ぎで逃げ出した。けれどもだその大多数は執拗しつように喰い付いていた。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
女の袖つけから膝へたまって、落葉がうずんだような茶殻をすくって、仰向あおむけた盆の上へ、俊吉がその手のしずくを切った時。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木戸を開けて表へ出ると、大きな馬の足迹あしあとの中に雨がいっぱいたまっていた。土を踏むと泥の音が蹠裏あしのうらへ飛びついて来る。かかとを上げるのが痛いくらいに思われた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おかっぱの頭を撫でてやると、子供は涙の一杯たまった目で川手氏を見上げ、廊下の奥の闇の中を指さした。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)