消去きえさ)” の例文
避けていられるだけ、それだけ、私は先生の心の底にあなたの事がまだ真実消去きえさらずにいるものと推察するのです。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
君が家庭の事情を幸いに、一ごん挨拶あいさつもなく、逃げる様に私の前から消去きえさった時、私は数日、飯も食わないで書斎に坐り通していた。そして、私は復讐を誓ったのだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
完成をあじわひつつ消去きえさるよりほかはあるまい。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
月日の過ぎゆくうちにいつともなく一ツ一ツ消去きえさって、ついに二度とふたたび見ることも聞くこともできないということが、はっきり意識せられる時が来る。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、一方では、日本の警察力がまる二ヶ月かかっても、あの有名な小説家を探し出すことが出来ず、彼奴あいつけむみたいに完全に消去きえさってしまったのだ。アア、僕はそれを考えるさえ恐ろしい。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立って便所はばかりへ行く時も或は二階の蚊帳かや這入はいってからは猶更、慶三の目の前からは一瞬間たりとも残る隈なく電燈の光に照し出されたお千代の真白なぽっちりした裸形の消去きえさいとまがない。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これでよし、気の毒ながら菰田源三郎は、俺の身替りになって、永久にこの世から消去きえさって了ったのだ。そして、ここにいる俺は、今こそ本当の菰田源三郎になり切ることが出来た。人見廣介は、最早どこを
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気味悪い狐の事は、下女はじめ一家中いっかちゅうの空想から消去きえさって、よるおそく行く人の足音に、消魂しく吠え出す飼犬の声もなく、木枯の風が庭の大樹だいじゅをゆする響に、伝通院でんつういんの鐘の音はかすれて遠く聞える。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)