浮腫むく)” の例文
もう二年越空家のままでゐるのだといふ。畳は何となく浮腫むくんでゐるやうな不気味さで、抜く足にべと/\と抜き残るやうであつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「こんなに瘠せてゐるやうで、これでやつぱし浮腫むくんでゐるんだよ」と、父は流し場で向脛を指で押して見せたりした。
蠢く者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
これと同時に、脚や足の甲がむくむくと浮腫むくみを増して来ました。そして、病人は肝臓がはれ出して痛むと言います。
臨終まで (新字新仮名) / 梶井久(著)
青脹れの醜い女——四十七、八にもなるでしょうか、その死骸はまた一段と不気味ですが、幾らか浮腫むくんでいるのは、縊れて死んだ者にある特徴です。
やはり寄る年ママと見え、わたくしが家を出たあとたまに家へ寄って見ると母は家事を取りながら、顔が腫れぼったく脚が浮腫むくむなぞと気にして申してました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最初は手足が浮腫むくみ、そのうちに頭まで腫れてくる。指で頭を押すとポコンと指痕が残るようになる。頸は二重にも三重にも括れ、どう見ても人間の姿ではない。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寿女がやすまない夜は、母親もまた枕の上で起きていた。そして、黄っぽく浮腫むくんだ面を横にしたまま褄さきや裾ぐけを手伝ってやりながら、窺うようにそんなことを言うた。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
間もなく、足萎あしなえの老人は四輪車を駆ってやって来たが、以前の生気はどこへやらで、先刻うけた呵責かしゃくのため顔は泥色に浮腫むくんでいて、まるで別人としか思われぬような憔悴やつれ方だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
額にたがを締められたような気分で、そしてふと気がつく。ああ、きょうも誰とも口をきかなかったと。これはよくない。きっと僕は浮腫むくんだような顔をしているに違いない。誰とでもいい。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
ソノセイカドウカ脚ガ非常ニ重ク且浮腫むくンデイル。浮腫ふしゅハ脛ヨリモ足ノ甲ガ一層甚ダシク、趾ノ根モトニ近イ辺ヲ指デ押シテ見ルト、恐ロシイホド深ク凹ム。ソシテイツマデモ凹ミガ戻ラナイ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
心氣朦朧、鈍頭痛、耳鳴り、そして後頭部半面の筋肉が硬直すると云ふのか浮腫むくむと云ふのか——顏の筋肉もさうだ——それが硬張るやうなむず痒いやうなヘンな不愉快な感じだ。
湖畔手記 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)