法師蝉ほうしぜみ)” の例文
濡れたと枯枝とに狼藉ろうぜきとしている庭のさまを生き残った法師蝉ほうしぜみ蟋蟀こおろぎとが雨のれま霽れまに嘆きとむらうばかり。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ブーンとものの羽音がしたかと思うとツイ眼の先の板塀で法師蝉ほうしぜみが鳴き出した。コスモスの花に夕日がさして、三歩の庭にも秋の趣はみちみちている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
坪庭の槇で法師蝉ほうしぜみがなきだした。法師蝉の金属的な声は評定所いっぱいにかんだかく反響し、渡辺金兵衛はちょっと答弁のでばなをくじかれたようであった。
たかしはこの間、やはりこの城跡のなかにあるやしろの桜の木で法師蝉ほうしぜみが鳴くのを、一尺ほどの間近で見た。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そのうちに秋口になって、山々の木立に法師蝉ほうしぜみがポツポツ啼き初める頃になると、深良屋敷の一知夫婦が揃いの晴れやかな姿で町へ出て、生れて初めての写真を撮った。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
秋風にふえてはへるや法師蝉ほうしぜみ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)