にじ)” の例文
これは常々兵隊の身を案じ続けていられる心遣いが私のような者の上にもにじみでるように出たお言葉であろうと胸に響くものがあった。
中支遊記 (新字新仮名) / 上村松園(著)
雪こそ降つてゐませんでしたが、湿つた夜の黒い空は私の窓の前迄にじみよせて居りました。まるで私は湖の底に坐つてゐるやうに思はれました。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
光川左門太の懊悩おうのうは、見る目も気の毒でした。平次はガラッ八に合図をして、そっと往来に飛出すと、額ににじむ汗を拭いて、ホッと溜息を吐きます。
その小さいことを透して大きな主観がにじみ出るということは、作家の技倆にる。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しかしながら蕪村の場合は、侘びが生活の中からにじみ出し、ねぎの煮えるにおいのように、人里恋しい情緒の中にみ出している。なおこの「侘び」について、巻尾に詳しく説くであろう。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
堀尾君は憤慨が込み上げて、額に玉の汗がにじんだ。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
えりのあたりは巧みに茶袋で隠してありますが、それを取除くと、たった一と眼で判る紐の跡が、凄まじい黒血をにじませて顎の下へ大きな溝になっているではありませんか。
寢起らしい不活發なところの微塵もない、爽やかな表情のうちにも、愛兒をうしなつた悲痛な隈があつて、らふたきばかりの美しさに、にじみ出る自然の愛嬌も世の常ではありません。