うる)” の例文
が、その中でも目についたのは、欄干らんかんそとの見物の間に、芸者らしい女がまじっている。色の蒼白い、目のうるんだ、どこか妙な憂鬱な、——
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは如何にも彫刻家が物のかたちを見極める無言の観察であるかの如く、余念のない、清澄なうるみを持つてゐた。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
信州の木曽渓きそだにでもある家の馬飼童うまかいわらわが、なまけて水を忘れて主人の馬を死なせ、それから水が火になって飲むことが出来ず、かろうじて木葉のしずくのどうるおすようになったといって
もう、いっぱいにうるんでしまう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と声も涙にうるみて聞ゆ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、女はその次の瞬間には、見る見る恥しそうな色に頬を染めて、また涙にうるんだ眼を、もう一度ひざへ落してしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
光子さんの眼は、夜露を湛へた露草のやうにうるんでゐました。
(新字旧仮名) / 牧野信一(著)
牛はうるんだ眼を挙げて、じつと私の顔を眺めた。それから首を横に振つて、もう一度熊笹の中へ引き返した。私はその牛の姿に愛と嫌悪とを同時に感じながら、ぼんやり巻煙草に火をつけた……
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
敏子はうるんだ眼の中に、無理な微笑を漂わせた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)