気紛きまぐれ)” の例文
旧字:氣紛
だからそこに云うに忍びない苦痛があった。彼らは残酷な運命が気紛きまぐれに罪もない二人の不意を打って、面白半分おとしあなの中に突き落したのを無念に思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「駄目だよ。ウチの船長おやじは会社の宝物ほうもつだからな。チットぐれえの気紛きまぐれなら会社の方で大目に見るにきまっている。船員のりくみだって船長おやじが桟橋に立って片手を揚げれや百や二百は集まって来るんだ」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひつそりと怖気をぢけづく、ほんの一時いちじ気紛きまぐれにつけ込んで
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ごく美しい幸福を気紛きまぐれでまずくします。
せい閑所かんしょに転ずる気紛きまぐれの働ではない。打ち守る光が次第に強くなって、眼を抜けた魂がじりじりと一直線に甲野さんにせまって来る。甲野さんはおやと、首をうごかした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立ち枯れの秋草が気紛きまぐれの時節を誤って、暖たかき陽炎かげろうのちらつくなかによみがえるのはなさけない。甦ったものを打ち殺すのは詩人の風流に反する。追いつかれればいたわらねば済まぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)