気宇きう)” の例文
不幸にして新来の彫刻家は、気宇きうの大なるわりに技巧がつたなかった。大自在王といい釈迦といい、豊かではあっても力が足りない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それは、酒の席に於いては、いかなる約束もせぬ事。これは、よくよく気をつけぬと、とんだ事になる。飲酒は感激を呼び、気宇きうも高大になる。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところで父の左衛門太郎は馬術剣術の達人で気宇きう人を呑む豪傑ではあったが平常賭け事や喧嘩を好んで一向家事を
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
地勢上、博多町人は、進取の気宇きうと、呑海どんかいの豪気にひいで、堺町人は経営の才と、文化性に富み、またこれを政治に結ぶことを忘れない特性をもっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柳がダイヤモンドに立ったとき群集は一度に喝采かっさいした。実際柳の風采、その鷹揚おうような態度はすでに群衆をわした。それに対して小原の剛健沈毅ちんき気宇きう、ふたりの対照はたまらなく美しい。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
気宇きうの小さい諸侯の容れるところとならず、未だにかくの如く、男児の為すある天地をたずね歩いておる始末です
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気宇きうの広濶希望の雄大、任侠的の精神など、日本海賊史のその中でも、三役格といわなければならない。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
気宇きうの小さなところが同時に見えいて、これではとても、吉岡拳法けんぽうの名声と、あの大きな道場とを、永くうけ継いで行ける器量ではない——とひそかに気の毒に感じるのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川中島大戦後、もうひとつ謙信の気宇きうをあらわしたものがある。斎藤下野、黒川大隅などの甲州に捕われていた使者の一行が、信玄の寛度かんどによって、無事、越後に帰って来てからである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)