此村ここ)” の例文
此村ここから東京へ百四十五里、其麽そんな事は知らぬ。東京は仙台といふ所より遠いか近いか、それも知らぬ。唯明日は東京にゆくのだと許り考へてゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ドーラギリー山の東谿とうけいにあるマルバ山村に出で、[六月十二日に]此村ここを立ってドーラギリー山の北の中腹のほとんど二万尺の所をえて西北原の方に進み
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
此村ここにはいささかながら物を売るみせも一二けんあれば、物持だと云われているうちも二三はあるのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
乞食の三日が忘られぬ人のこころの不思議さは、そなたを此村ここに置くまいと、他国に苦労したおれが。自分ばかりはこの村の土となりたさ、多からぬ余命を隠れて住むつもりが。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
『屹度、なんですよ。先生からおあしを貰つたから歩くのが可厭いやになつて、日の暮れるまで何処かで寝てゐて、日が暮れてからそつと帰つて来て此村ここへ泊つて行つたんですよ。』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夜にもなっているのにそっと此村ここを通り抜けてしまおうとしたじゃあないか。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
帰るに家なき勘当の身と断れば、なほの事、それはどうでも見離せぬ、いつまでなりと逗留と、連れられたは闇の夜の、月にも見離されたる身、まさかに此村ここであらうとは、心注かぬももつともか。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
立つ前にこつそ衣服きものなどを取纒めて、幸ひ此村ここから盛岡の停車場に行つて駅夫をしてる千太郎といふ人があるから、馬車追の権作老爺おやぢに頼んで、予じめ其千太郎の宅まで届けて置く。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それよりも合はせぬ顔を、このまま此村ここに御介抱。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
日附は昨日の午前六時にしてありますが、昨日の午前六時なら恰度此村ここから立つて行つた時間ぢやありませんか。そして消印スタンプは今朝の五時から七時迄としてありますよ。矢張今朝○○を
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)