歓楽たのしみ)” の例文
旧字:歡樂
是程深く人の世の歓楽たのしみを慕ひあこがれて、多くの青年が感ずることを二倍にも三倍にもして感ずるやうな、其様そんな切なさは知らなかつたであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
嗚呼我人とも終には如是かく、男女美醜のわかちも無く同じ色にと霜枯れんに、何の翡翠の髪のさま、花の笑ひのかんばせか有らん。まして夢を彩る五欲の歓楽たのしみ、幻を織る四季の遊娯あそび、いづれか虚妄いつはりならざらん。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
新酔月の料理も二口三口召上って見て、犬にくれました。女の歓楽たのしみほど短いものはありません。奥様はその歓楽にすら疲れて、飽々となさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは丑松の身に取つて、最も楽しい、又最も哀しい寺住てらずみの一夜であつた。どんなに丑松は胸を踊らせて、お志保と一緒に説教聞く歓楽たのしみを想像したらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こればかりでも、女は死にます。奥様の不幸ふしあわせな。歓楽たのしみにおいは、もう嗅いで御覧なさりたくも無いのでした。奥様はくたぶれて、乾いた草のようにしおれて了いました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一盃いつぱいやると、きつと其時代のことを思出すのが我輩の癖で——だつて君、年を取れば、思出すより外に歓楽たのしみが無いのだもの。あゝ、せんの家内はかへつて好い時に死んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)