東塔とうとう)” の例文
峰から東塔とうとうの沢へ出て、やがて飯室谷へ来る間の眼にふれる物も、すべて彼とは旧知の山水である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一体御前方はただ歩行あるくばかりで飛脚ひきゃく同然だからいけない。——叡山には東塔とうとう西塔さいとう横川よかわとあって、その三ヵ所を毎日往来してそれを修業にしている人もあるくらい広い所だ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東塔とうとう御幸ごこう頂きたい」
「きのうも、おとといも、その前も、毎日のように、おいら方々聞いて歩いていたんだよ。——するとね、きょう聞いたのさ。武蔵様は、東塔とうとうの無動寺に泊っているって」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みずからその兄宮のいる東塔とうとう南谷の円融坊えんゆうぼうとよぶ坊舎の内を、そっと訪ねていたのだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
建久二年の年は、範宴はんえん少納言がこの東塔とうとう無動寺むどうじに入ってから、ちょうど九年目に当たる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根本中堂こんぽんちゅうどうをはじめ山王七社も東塔とうとう西塔の伽藍がらんも三千の坊舎ぼうしゃも、法衣に武装したものどものすみか以外の何ものでもない。陰謀、策動の巣以外に、現在の世のなかへの何の役割をしているか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るとそれは、今は東塔とうとうの無動寺にいる木幡民部こばたみんぶと、性善坊の二人だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)