最愛いと)” の例文
之を思うと余は最愛いとしさが百倍するけれど、悲しや其の人は既に他人の物、余は其の最愛しさを憎さと見せて居ねば成らぬ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
最愛いとしい、沢山たんとやつれ遊ばした。罪もむくいもない方が、こんなに艱難辛苦かんなんしんくして、命に懸けても唄が聞きたいとおっしゃるのも、おっかさんの恋しさゆえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ても亡びんうたかたの身にしあれば、息ある内に、最愛いとしき者を見もし見られもせんとからくも思ひさだめ、重景一人ともなひ、夜にまぎれて屋島をのがれ、數々のき目を見て
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
さりとて再度お顏をば見申さじ、いかなる事より罪の顯はれて、最愛いとしき君に連累の咎口惜し、何も直次は今日限りのお暇、此世に無き物とおぼしすてられて、事の成否は世の取沙汰に聞き給へ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
娘は十六歳でありました。すべて子供は皆同じで、いずれに愛情のかわりは御座いませんけれども、この総領娘は私が困苦していた盛りに手塩てしおにかけただけに、余計に最愛いとしまれるように思われます。