暑熱あつさ)” の例文
荷足にたり、小舟の類の帆を張り艫櫂ろかいを使ひて上下するのみなれば、閑静の趣を愛して夏の日の暑熱あつさを川風に忘れんとするの人等は、大橋以西、製紙所の上
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
富江が来ると、家中うちぢゆうが急に賑かになつて、高い笑声が立つ。暑熱あつさ盛りをうつら/\とてゐたお柳は今し方起き出して、東向の縁側で静子に髪を結はしてる様子。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
午後になって、暑熱あつさが加わって来ると、子供は一層弱って来た。そして烈しい息遣いをしながら、おりおり目を開いてかわきを訴えた。目には人の顔を見判みわける力もなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さうして日中の暑熱あつさに何も彼もぢつと息を凝らしてる樣な暑苦しさと靜さが、その赤くなつた疊の隅々に影を潜めてゐた。みのるは半巾はんけちで顏を抑へながら、せつせと扇子を使つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
雲一つ無い暑熱あつさ盛りの、恰度八月の十日、赤い赤い日が徐々そろそろ西の山に辷りかけた頃であつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)