旧舗しにせ)” の例文
池上の家の瀬戸物町の麻問屋は、旧幕時代から暖簾のれんを続けた旧舗しにせなのだが、息子の清太郎に取って玄祖父に当る主人太兵衛が偉かった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その商事会社は元来、地所持ちの旧舗しにせが店の形を改めたもので、貿易は片手間に過ぎないけれども当主は道楽半分なか/\熱心でありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鼈四郎は母親の素性をわずかに他人から聞き貯めることが出来た。大阪船場せんば目ぬきの場所にある旧舗しにせの主人で鼈四郎の父へ深く帰依きえしていた信徒があった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大体、この辺の横町は、大小旧舗しにせの問屋筋が、表附を現代のオフィス風に建て改めたのが多く、退勤時間以後は防火扉をおろして町並はくろずみ渡っています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大寺に生れ、幼時だけにしろ、総領息子という格に立てられた経験のある、旧舗しにせの娘として母の持てる気位を伝えているらしい彼の持前は頭の高い男なのであった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
老父のそこまでの話の持って来方には、衰えてはいるようでも、下町の旧舗しにせの商人の駆け引きに慣れた婉曲えんきょくな粘りと、相手の気の弱い部分につけ込む機敏さがしたたかに感じられた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)