斑白はんぱく)” の例文
そのうちにかすかに酔が学士の顔に上った。学者らしい長い眉だけホンノリと紅い顔の中に際立きわだって斑白はんぱくに見えるように成った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それによると、遺体はなほ湿気があつて異香馥郁とし、片腕は羅馬へ送られて無く残つた片腕を胸に当て、面部は細長く色は黒ずみ、頭髪と鬚髯しゅぜん斑白はんぱくであつた。
そのシャンデリヤの下に斑白はんぱく長鬚ちょうしゅのガッチリしたつらつきの老爺おやじが、着流しのまま安楽椅子に坐って火をけながら葉巻を吹かしている。写真で見たことのある唖川伯爵だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
客は斑白はんぱくの老紳士で、血色のいい両頬には、いささか西洋人じみたまばらな髯を貯えている。これはつんと尖った鼻の先へ、鉄縁てつぶちの鼻眼鏡をかけたので、殊にそう云う感じを深くさせた。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さらに正面の棺を破ってみると、棺中の人は髪がすでに斑白はんぱくで、衣冠鮮明、その相貌は生けるが如くである。棺のうちには厚さ一尺ほどに雲母きららを敷き、白い玉三十個を死骸の下に置きならべてあった。
と先生は流し場の水槽みずぶねのところへ出て、斑白はんぱくな髪をらしながら話した。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)