数多すうた)” の例文
旧字:數多
然るに彼の氏名未詳の人物は鱷の胃中に入りてこゝに住居を卜し、鱷の持主の嘆願を容れず、数多すうたの不幸なる家族の悲鳴を省ず、鱷の胃中に滞留せり。
浮世絵の板画が肉筆の画幅に見ると同じき数多すうたの色彩を自由に摺出すりいだし得るまでには幾多の階梯かいていを経たりしなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つねに「大名と札差の療治はせぬ事だ」と云つた。しかし榛軒が避けむと欲して避くることを得ずに出入した大名の家は、彼の輓詩を寄せた棚倉侯の外に数多すうたあつたことは勿論である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
賦性豪邁なる柏軒は福山に奉職することを欲せず、兄も亦これを弟に強ふることを欲せなかつたのである。丙辰の筮仕ぜいしは柏軒が数多すうたの小事情にほだされて、忍んで命を奉じたのであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然るにわたくしの獲た所の資料中には、榛軒に関する事蹟にして年月日のもとに繋くべからざるもの、若くは年月日不詳なるものが数多すうた有る。そして其大半は曾能子刀自の記憶する所である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)