故紙こし)” の例文
道衍の峻機しゅんき険鋒けんぼうを以て、しずかに幾百年前の故紙こしに対す、縦説横説、はなはれ容易なり。是れ其のる可き無き所以ゆえんなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雨晴れて月朦朧おぼろの夜にちび筆の軸を伝つてのみ、そのじくじくした欲情のしたたりを紙にとどめ得た。『雨月』『春雨はるさめ』の二草紙はいはばその欲情の血膿ちうみぬぐつたあとの故紙こしだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
(予はあへて友人とは称せざる可し)ふ、予が精神的健康を疑ふ事勿れ。然らずんば、予が一生の汚辱を披瀝ひれきせんとする此遺書の如きも、結局無用の故紙こしたると何の選ぶ所かこれあらん。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すべてが一片の故紙こしに過ぎなくなってしまうでしょう。西郷隆盛は城山で死ななかった。その証拠には、今この上り急行列車の一等室に乗り合せている。このくらい確かな事実はありますまい。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)