擺脱はいだつ)” の例文
而も耶蘇教徒のリバイバルの如くに『氣の伸び』を欲して、直に一切の利害を擺脱はいだつして、正しきに合せんとすることも起る。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
至善至悪に対する妙念は残らず擺脱はいだつし去りてだ慾火炎上の曲りくねりたる一時のすゞしさを此上なき者と珍重す。
惰力の為めに面白くもない懶惰らんだな生活を、毎日々々繰り返して居るのが、堪えられなくなって、全然旧套きゅうとう擺脱はいだつした、物好きな、アーティフィシャルな
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一時一処の国民性を擺脱はいだつせよと要求するの(其の要求の当否は別論として)之れを描けと要求するの殆ど無意味なるまさりて新意味あるを認めずばあらざるなり
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
胸中一戀字いちこひじ擺脱はいだつすれば、便すなはち十分爽淨、十分自在。人生最も苦しき處、只〻是れ此の心。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ひとり生存の欲を一刻たりとも擺脱はいだつしたるときにこのまよいは破る事が出来る。高柳君はこの欲を刹那せつなも除去し得ざる男である。したがって主客を方寸に一致せしむる事のできがたき男である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一言すれば二葉亭は能く外国思想に熟していたが、同時にやはり幼時から染込んだ東洋思想を全く擺脱はいだつする事が出来ないで、この相背馳あいはいちした二つの思想の蹚着とうちゃくが常に頭脳に絶えなかったであろう。
といふに至りては、伏姫の心中既に大方の悲苦を擺脱はいだつして、澄清洗ふが如くになりたらむ。八房も亦た時に至りては、読経の声に耳を傾け、心をすまし欲を離れて、只管ひたすら姫上ひめうへ眷慕けんぼするの情を断ちぬ。