憔悴やつれ)” の例文
片端かたはの足を誰にも氣付かれまいと憔悴やつれる思ひで神經を消磨してゐた内儀さんの口惜しさは身を引き裂いても足りなかつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
此は——指ざしつゝ——ボナジユンタ、ルッカのボナジユンタなり、またその先のきはだちて憔悴やつれし顏は 一九—二一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
年は五十に近い。ひげは幾日もらないと見えてぼうぼうと延びたままである。いかな獰猛どうもうも、こう憔悴やつれるとあわれになる。憐れになり過ぎて、逆にまたこわくなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてその瞬間だけは、宗教心のない私にも死んだ妻が憔悴やつれながらに優しいあの顔をほころばせてさも楽しげに身近く引き添うていてくれるような気がしてならなかった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
おあいは、夫がほとんど見ちがえるほど憔悴やつれはてたのを、その頬や腰のあたりに見た。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
ただ満足そうに心から嬉しそうに幾分憔悴やつれの見える頬にえくぼうかめていられるばかりであった。そして黙ってチョッキの隠しポケットから小さな金時計を出して眺められていた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
憔悴やつれ切った髭面ひげづらを並べて、船室に頬杖突きながら、舷窓越しに逆巻く潮流の壮観さに見惚れていたのであったが、この潮流の中へ捲き込まれてみて初めて、世界の航海者が
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)