憔悴やつ)” の例文
あか染みた、こわい無精髭が顔中を覆い包んでいるが、鼻筋の正しい、どこか憔悴やつれたような中にも、りんとした気魄きはくほの見えているのだ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
気がつくと、夏も妻もみんな一週間のまにすっかり憔悴やつれてしまった、それでも妻は気ばかり立っていた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この蛤は非常に憔悴やつれてゐるのである。
まったくあの顔は、貴方生き写しなのですから。でも少し憔悴やつれていて、顔に陰影のあり過ぎることと、貴方にあった——抱き潰すような力強さには欠けております。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
頬のにくが落ち、眼ばかりがきらつくななえの顏を見ながら、かんさんも眼じりがたるんで暗みをふくみ出したことも、市村か泊りこむやうになつてからの憔悴やつれ方であつた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
この蛤は非常に憔悴やつれてゐるのである。
蝶を夢む (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
間もなく、足萎あしなえの老人は四輪車を駆ってやって来たが、以前の生気はどこへやらで、先刻うけた呵責かしゃくのため顔は泥色に浮腫むくんでいて、まるで別人としか思われぬような憔悴やつれ方だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ああ、憔悴やつれ果て、うらぶれた姿を見たら、誰が、法衣に包まれた昔の検事を思うじゃろうか。だがわしには、そういう気持が、てんで分らんがねえ。自分の起訴が正しかったか正しくなかったかって。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)