憑依ひょうい)” の例文
憑依ひょういの去った巫者ふしゃのように、身も心もぐったりとくずおれ、まだ六十を出たばかりの彼が急に十年も年をとったようにけた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それが空想であるか、実在であるかを決めるのは私らの放擲ほうてき憑依ひょうい、転換——内面から迫られた一種の冒険でなければならないかと思います。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん』「昭公七年」の条に、鄭子産ていしさんが「匹夫匹婦強死すれば、その魂魄こんぱくなおよく人に憑依ひょういして、もって淫厲いんれいをなす」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
さらに心霊学いっさい、すなわち降霊術、奇蹟研究、心的磁力、催眠術、呪医(神秘医術)、テレパシ、千里眼、二重人格(分身現象)、夢中遊行、憑依ひょうい、等々である。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
憑依ひょうい状態になって熱祷をこめると、気の弱い信者達の病気は、不思議にケロリと癒るのでした。
我ら会員はホップ夫人とともに円卓をめぐりて黙坐もくざしたり。夫人は三分二十五秒ののち、きわめて急劇なる夢遊状態に陥り、かつ詩人トック君の心霊の憑依ひょういするところとなれり。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしながら、そのいわゆる神は単に論理上の冷ややかなる存在であって、われらの温かなる憑依ひょういの対象となる人格的の神ではないのであろうか。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
明かに精神異状者としか思われない憑依ひょうい状態の女が、神様扱いにされて、預言めかしい事を喋舌しゃべり散らし、ペテン師がまたそれを利用して、巧みに狂信者群を煽り立て、いつの間にやらそれが
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「青銅ランプの呪い」にはエジプト古墳発掘のたたりによる人間消失の奇蹟が、「三つの棺」には魔術研究家と吸血鬼伝説と黒魔術が、「夜歩く」には最も奇怪なる憑依ひょうい、狼き(ウワーウルフ)が
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)