恨事こんじ)” の例文
お町を救わなかったのが、恐らく千載の恨事こんじだったのでしょう。そう言ううちにも、チラリチラリと周助の満悦の顔を見やります。
しかしその娘が丸薬缶でなくってめでたく東京へでも連れて御帰りになったら、先生はなお元気かも知れませんよ、とにかくせっかくの娘が禿はげであったのは千秋せんしゅう恨事こんじですねえ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(陸路がむずかしければ、海路を渡って来い。時逸しては、千載までの恨事こんじのこそうぞ)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霞亭と其医学の師広岡文台ぶんたいとは、別後久しきを経て再会すべきであつたに、文台は期に先だつて歿した。凹巷の所謂「訪我顧茅茨」の日は、霞亭が此恨事こんじけみする直前と直後とにあつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
執リテ矻々こつこつ事ニ是レ従フト雖モ俗累ぞくるいちゅうヲ内ニ掣シテ意ノ如クナラズ其間歳月無情ゆきテ人ヲ待タズ而シテ人生寿ヲクル能ク幾時ゾ今ニシテ好機若シ一度逸セバ真ニ是レ一生ノ恨事こんじ之ニ過グルナシ千思せんし万考ばんこうすみやかニ我身ヲ衣食ノ煩累はんるいト絶ツノ策ヲ画スルノ急要ナルヲ見又今日本邦所産ノ草木ヲ図説シテ以テ日新ノ教育ヲ
お町を救はなかつたのが、恐らく千載せんざい恨事こんじだつたのでせう。さう言ふうちにも、チラリチラリと周助の滿悦の顏を見やります。
この二つの恨事こんじは、彼が白骨となるまでも、永劫えいごうに抱く心残りであらねばならぬ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)