忸々なれなれ)” の例文
妹達が「兄さん、兄さん」と言ってめずらしがれば、お新も同じように彼を呼んで、まるで親身の妹かなんぞのように忸々なれなれしく彼の傍へ来た。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よく眠れたかとか、郷里くにの夢を見なかつたかとか、お吉は昨晩ゆうべよりもズツト忸々なれなれしく種々いろいろな事を言つてくれたが
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いらっしゃいまし」忸々なれなれしく一つの笑顔が彼を迎えた。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
そして富江の阿婆摺れた調子、殊にも信吾に対する忸々なれなれしい態度は、日頃富江を心にかろんじてゐる智恵子をして多少の不快を感ぜしめぬ訳にいかなかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と学士は今までにない忸々なれなれしい調子で話し掛けて、高瀬と一緒に石垣わきの段々を貧しい裏町の方へ降りた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と岸本も忸々なれなれしく言った。彼は十五六ばかりになるその少年を小舟に乗る時の相手として、よく船宿から借りて連れて行った。少年ながらにを押すことは巧みであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
路で逢ふ人には、何日いつになく忸々なれなれしく此方から優しい声を懸けた。作右衛門店にも寄つて、お八重は帉帨ハンケチを二枚買つて、一枚はお定に呉れた。何処ともない笑声、子供の泣く声もする。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
画家のアトリエというよりはむしろ科学者の実験室のように冷く厳粛おごそかなものとして置いた書斎の中に、そうして忸々なれなれしくいられることを彼女は夢のようにすら楽しく思うらしかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以前は、「オイ、三公」なぞと忸々なれなれしく呼んだ旦那衆が、改まってやって来て、「小泉君」とか「三吉君」とか言葉を掛けた。主人を始め、集って来る人達は大抵忠寛の以前の弟子であった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次第に玉木さんも捨吉と忸々なれなれしい口を利くように成ったのである。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お俊は叔父の側へ来て、余計に忸々なれなれしく言葉を掛けた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
W君はこの人達と懇意で、話し方も忸々なれなれしい。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな忸々なれなれしさは見られなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)