徹宵よっぴて)” の例文
お銀は急いで医者へ連れて行ったが、その晩は徹宵よっぴて母親が床のうえに坐って、冷えやすい病児の腹を、自分の体で温めていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
閽者もんばんは児を抱いた若い女の来たことを取りついだ。南は逢わなかった。南はその夜門の外で女と児の啼く声を徹宵よっぴて聞いたが、黎明よあけごろからぱったり聞えなくなった。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「会ったよ、会ったよ、紅葉に会って来たよ。徳太郎なかなか話せる。すこぶる快男子だ。昨宵ゆうべ徹宵よっぴて話して、二時まで大気焔だいきえんを挙げて来た。紅葉は君、実にえらい。立派な男だ!」
二三の医師にせましたが、みんなどこにも故障がないという診断です。それから夜もいけません。朝に眼が醒めたときは、徹宵よっぴて放蕩でもしたように体がぐだぐだに疲れています。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その夜、徹宵よっぴてフローラは、壁に頭をもたせ、うずくまるようにして座っていた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
じっとりした往来には、荷車のきしみが静かなあたりに響いていた。徹宵よっぴて眠られなかったお島は、熱病患者のようにほてったほおを快い暁の風にふかれながら、野良道を急いだ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しまいにくたびれてしまった。徹宵よっぴてそうしているわけにも行かなかった。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ほとんど徹宵よっぴて付ききりで二人の看護婦を督励し、ひっきりなしの注射に酸素吸入、それにある部分は冷やし、ある部分は温めもしたり、寝食を忘れて九死に一生を得ようと努めるのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)