御憐憫ごれんびん)” の例文
しかもその金を受け取らないとなれば、わたしばかりか一家のものも、路頭ろとうに迷うのでございます。どうかこの心もちに、せめては御憐憫ごれんびんを御加え下さい。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三月六日に優善は「身持みもち不行跡不埒ふらち」のかどを以て隠居を命ぜられ、同時に「御憐憫ごれんびんを以て名跡みょうせき御立被下置おんたてくだされおく
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
上方組との打合せはよいが、一体、いつ迄、このような同じ文句の遣取やりとりを交しているのだ。内蔵助殿の手紙といえば、毎度決まって、公儀の御憐憫ごれんびんにおすがり申し奉る事だ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これなるは即ち、その江戸よりのお手土産、御尊覧に供しまするもお恥ずかしい程の品々にござりまするが、何とぞ御憐憫ごれんびんを持ちまして御嘉納ごかのう賜わりますれば恐悦にござりまする……
どうかハヤ御勘弁を……いえこれは御客人が物の道理の好くお了解わかりの方と存じまして、ひたすら御憐憫ごれんびんを願う次第で御座りまするが、実は手前方、こうして大きく店張りは致し居りますれど
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
見えぬ世界を見んとする不具者の欣求心ごんぐしん御憐憫ごれんびんを下されたい、入門の儀、ひたすらに御紹介を頼み入ると、これは例のほしいままなる広長舌をろうすることなく、極めて簡単明瞭に来意の要領を
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不埓の所業仕候段慚愧ざんきに堪えず候間、重なるわが罪悔悟かいごのしるしに、出家遁世仏門しゅっけとんせいぶつもん帰依きえ致し候条、何とぞ御憐憫ごれんびんを以て、家名家督その他の御計らい、御寛大の御処置に預り度、右謹んで奉願上候。