御府内ごふない)” の例文
御府内ごふないには随分名高い松の木があるようで御座いますがやはりあの首尾の松にとどめを刺しますかな。」と答えたのは鶴屋喜右衛門つるやきうえもんである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
笠森かさもりのおせんは、江戸えどばん縹緻佳きりょうよしだ。おいらがまずなんぞにかないでも、きゃく御府内ごふない隅々すみずみから、ありのようにってくるわな。——いいたくなけりゃ、かずにいようよ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いってい、てめえなんざ、御府内ごふないへつんだす面じゃねえ。ねえ、旦那、気味が悪いじゃありませんか。あッしはね、こいつの面を見ると、きまってその晩、瓢箪の夢を見てうなされるんです
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「何んといふ馬鹿なことをするんだ、御府内ごふないの火付けは、火焙ひあぶりだぞ」
いつもならば江戸御府内ごふない湧立わきたち返らせる山王大権現さんのうだいごんげんの御祭礼さえ今年は諸事御倹約の御触おふれによってまるで火の消えたようにさびしく済んでしまうと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いつ見ましても御府内ごふないの御繁昌は豪勢なもので御座いますな。いかがで御座いましょう。どこぞその辺の桟橋へ着けまして二、三人綺麗きれいなところを呼寄せ久ぶりで先生の美音を
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)