彷徨さまよい)” の例文
高田の下男銀平は、下枝を捜しいださんとて、西へ東へ彷徨さまよいつ。ちまた風説うわさに耳をそばだて、道く人にもそれとはなく問試むれど手懸り無し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうした暗黒の彷徨さまよいから出離して、念仏門へ一転した綽空は、そこでも、ただ易行往生の教えだけに安んじていられなかったと見える。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この嵐に用達しといふことがあらうか? 恐らくは腹立ち紛れに走り出て、多次郎を引摺りながら、街を(——畑か?)彷徨さまよい歩くものであらう。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彷徨さまよいあるき、なにかの幸福を手掴てづかみにしたい焦慮しょうりょに、身悶みもだえしながら、遂々とうとう帰国の日まで過してしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それが幾日となく続きに続くこともあった。一年の異郷の月日は彼に取って実際に長い彷徨さまよいの連続であった。彼は彷徨うことを仕事にして来た自分にあきれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼の歩みは「歩み」というより、むしろ彷徨さまよいというべきであった。否むしろよろめきというべきであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奴等は心細い、火の中の彷徨さまよいをまた繰り返す。