弥増いやまさ)” の例文
夜に入りて雨の音しめやかに、谷川の水音弥増いやまさるを聞くに付け、世にも不思議なる身の運命、やう/\に思ひ出でられつ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
友は敵と化して、その鋭峻えいしゅんなる論理を武器として彼を責めたてる。友の放つ矢は彼の心臓に当って、彼の苦悩は弥増いやまさるのみである。この時ヨブの苦悩悲愁は絶頂に達したのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
乱れたびんをかき直し、泣脹なきはらした眼をしばたたいて、気まりわるげに、燈火あかりを避けてうつ向く様子のいたいたしさも、みんな此方の短気からと後悔すれば、いよいよいとしさが弥増いやまさ
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今来し道を人に問ひ/\引返し行く程に、いつしか、あらぬ山路に迷ひ入りけむ、行けども/\人家見えず。されども香煙のなつかしさは刻々に弥増いやまさり来りて今は心も狂はむばかり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
快感の身顫みぶるいやわらかき接触の弥増いやまさる緩き波動。
毎日正午ともなれば人一人斬らでは止み難く、斬れば早や香煙に酔ひたる心地して、南蛮寺下の花畑に走り行く。心は現世の鬼畜、悪魔、外道に弥増いやまさるやらむ。身は此世ならぬ極楽夢幻の楽しみ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)