尨毛むくげ)” の例文
最初に彼の目にとまったのは、彼が自分だけで「尨毛むくげの猟犬」と仇名あだなを与えている二面の主任のKさんであった。彼はすぐ腹の中で初めた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
お増の家のすぐ近くの通りをうろついている犬に、細君はふと心をかれた。その犬の狐色の尨毛むくげや、鼻頭はながしら斑点ぶちなどが、細君の目にも見覚えがあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
荒い格子こうしおりに閉じこめられて嘆いてる仔牛こうし、青っぽい白目をしてる飛び出した大きい黒い眼、薄赤い眼瞼まぶた、白い睫毛まつげ、額に縮れてる白い尨毛むくげ、紫色の鼻、X形の足
大変ものやわらかに、品のいいような快さを感じるとともに、年に似合わない単純さに、罪のない愛情を感じて、尨毛むくげだらけの耳朶みみたぶを眺めながら自ずと微笑ほほえまれるような心持になるのである。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)