おだやか)” の例文
われおもふに所謂理想主義を叙情詩の門の專有に歸し、所謂實際主義を叙事詩の門の專有に歸する如きは恐らくはおだやかならざる論ならむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
唯だ彼人の往かんはおだやかならねば、我もえ往かざるべし。そが上コンスタンチヌスの寺なる彼儀式は固より餘りでたからぬ事なり。
団十郎の源蔵の花道の思入を難じたるが、これは六二連ろくにれんおだやかならずといひしことあり。友右衛門の型を引合に出されしは当らず。とにかく明治十四年春の評判記を見たまへ。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
エワレツトと早稻田黨との彼と此とを分てるはまことにさることながら、そのかなたを私情なりとし、こなたを公情なりとするはすこぶるおだやかならず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
我床には呪水をそゝぎぬ。わが眠に就くときは、僧來りて祈祷を勸めたり。此處置は益〻我心をおだやかならざらしめき。囈語うはごとの由りて出づるところは、われ自ら知れり。
「ロマン」の字に代ふるに「エチユウド」の字を以てせばすこぶるおだやかならむ。さて試驗の結果は事實なり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
耶蘇ヤソ紀元前三百十二年アピウス・クラウヂウスの築く所にして、今猶アピウス街道の名あり。)車にて行かば坐席極めておだやかなるべく、菩提樹の街樾なみきは鬱蒼として日を遮り、人に暑さを忘れしむ。
そこへ独逸ドイツから郵便物が届いた。いつも書籍を送ってくれる書肆しょしから届いたのである。その中に性欲的教育の問題を或会で研究した報告があった。性欲的というのはおだやかでない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
試みにるがい。一瞬の如くに過ぎ去った四十年足らずの月日を顧みた第一の句は、第二の薄才のぶもっおだやかけられるはずがない。のぶるというのは反語でなくてはならない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
既に久しくこの自由なる大學の風に當りたればにや、心の中なにとなくおだやかならず、奧深く潜みたりしまことの我は、やう/\表にあらはれて、きのふまでの我ならぬ我を攻むるに似たり。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
既に久しくこの自由なる大学の風に当りたればにや、心の中なにとなくおだやかならず、奥深く潜みたりしまことの我は、やうやう表にあらはれて、きのふまでの我ならぬ我を攻むるに似たり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蘭軒に「集書家」のもくを与ふることの或はおだやかならざるべきを思ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)