大物おおもの)” の例文
殿様は入府になるなり、下邸に逼塞し、元日の参賀にも、十一日の具足祝いにも上らず、大物おおものを抱えて鬱々としてござった。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「うまい! 落ちついていやがる。あいつは、まだまだ、大物おおものになれる。しめたものさ。なにせ、あいつは、こわいものを知らない女ですからな。」
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なかには市五郎がテラを取ったり頭をねたり、自分ばかり甘い汁を吸って、こちとらにはケチで、そのくせ、いやに大物おおものぶっているのを面憎つらにくがっているのもあるのですから
元来私自身が大物おおものになり得ない性質をもち、同時に小物にもなり得ない性質をそなえ、余程恵まれた環境かんきょうでなければ、利用価値のない人間なのだが、博雄はこの小物性を特にもつことは
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
大物おおものを掴まえたもんやわな。———どうせよぼよぼのおじいさんやろうな」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たけ五尺の唐子で一対という注文、今日ではなんでもないが、その当時、徳川末期のドン底の、すべて作品が小さくなっている時代の彫刻界では、丈五尺というと、まずなかなかの大物おおものであって
管轄かんかつの警察署に留置するには、あまりに大物おおものだからです。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「先輩どころか、張継はもっと大物おおものさ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
相手は諸元を狂わせた得態の知れぬ大物おおもので、装薬の割が一匁ちがっても、砲身といっしょにすっ飛ばされる恐れがある。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鼠小僧はこちとらに毛の生えたたちの奴で、子分を持たずに一人で鼠のように駈け廻った男だが、日本左衛門は虎になりそこなった大物おおものだ、乱世ならば一国一城の大名になり兼ねねえ奴だ
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私一個の腕としてこの大物おおものを立派にやり上げるということはお恥ずかしいが不安心であります……といって私の片腕となって立派にこの馬をやりこなせる人物は差し当り学校には見当りません……
「そんな大物おおものでもねえさ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
箱根の石高いしだか道をひきおろし、神田誓願寺せいがんじ前の松浦侯の上邸かみやしきにおさまったところを拝見に出かけたが、臼砲の口径は一尺二寸、砲身の長さは十五尺もあるという、思いもかけぬ大物おおものだったので
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)