大一座おおいちざ)” の例文
三人の通った座敷の隣に大一座おおいちざの客があるらしかった。しかし声高こえたかく語り合うこともなく、ましてや絃歌げんかの響などは起らなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かかる折から、地方巡業の新劇団、女優をしゅとした帝都の有名なる大一座おおいちざが、此の土地に七日間なのかかんの興行して、全市の湧くが如き人気を博した。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこには、従来の一座と別廓をつくって、大一座おおいちざ新面しんがおが、雑然たる衣裳道具の中に、血眼ちまなこになって初日の準備を急いでいる。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俳優の共進会と噂されたほどの大一座おおいちざであっただけに、入場料の高くなるのもまた自然の結果で、桟敷さじき一間ひとまが四円五十銭というのであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時々大一座おおいちざでもあった時に使う二階はぶっ通しの大広間で、伽藍堂がらんどうのような真中まんなかに立って、波を打った安畳をながめると、何となく殺風景な感が起った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)