夥多おびただし)” の例文
この月二十日の修善寺の、あの大師講の時ですがね、——お宅のそば虎渓橋こけいばし正面の寺の石段の真中まんなかへ——夥多おびただし参詣さんけいだから、上下うえした仕切しきりがつきましょう。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯有とある横町を西に切れて、なにがしの神社の石の玉垣たまがきに沿ひて、だらだらとのぼる道狭く、しげき木立に南をふさがれて、残れる雪の夥多おびただしきが泥交どろまじりに踏散されたるを、くだんの車は曳々えいえい挽上ひきあげて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ところが、大漁といううちにも、その時は、また夥多おびただしく鰯があがりました。獅子浜在の、良介に次吉じきちという親子が、気を替えて、烏賊釣いかつりに沖へ出ました。暗夜やみの晩で。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)