夕汐ゆうしお)” の例文
車に揺られて、十九日の欠月けつげつを横目に見ながら、夕汐ゆうしお白く漫々まんまんたる釧路川に架した長い長い幣舞橋ぬさまいばしを渡り、輪島屋わじまやと云う宿に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たちまともしびの光の消えて行くようにあたりは全体に薄暗く灰色に変色して来て、満ち来る夕汐ゆうしおの上を滑って行く荷船にぶねの帆のみが真白く際立きわだった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夕汐ゆうしおの高い、もやのしめっぽいよいなど、どっち河岸を通っても、どの家の二階の灯もなまめかしく、川水に照りそい流れていた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わにの居る夕汐ゆうしおみちぬ椰子やしの浜
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それは大川口おおかわぐちから真面まとも日本橋区にほんばしくの岸へと吹き付けて来る風をけようがためで、されば水死人のしかばねが風と夕汐ゆうしおとに流れ寄るのはきまって中洲の方の岸である。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は本所深川辺ほんじょふかがわへんの堀割を散歩する折夕汐ゆうしおの水が低い岸から往来まで溢れかかって