塗骨ぬりぼね)” の例文
見ると、御守殿風な女中に上品な老女、何かしばらく番太郎に囁いていたが、そのうち、塗骨ぬりぼねの小扇をかかげてさしまねくと、一挺の駕が
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家は腰高こしだか塗骨ぬりぼね障子を境にして居間いまと台所との二間ふたまのみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありと覚しく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白地の明石縮あかしちぢみ着更きかへると、別家の娘が紅の絽繻珍ろしゆちんの帯を矢の字に結んでくれた。塗骨ぬりぼねの扇を差した外に桐の箱から糸房いとぶさの附いた絹団扇きぬうちはを出して手に持たせてくれた。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
明け放された塗骨ぬりぼねの障子からいながら見える春の善美を花籠に盛ったような奥庭の築山、泉水
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその扇が母の前へ持つて来られて、開いて見せて貰ふのがどんなに楽みだつたか知れません。私は稽古朋輩ほうばいの持つて居るやうな塗骨ぬりぼねの扇が欲しいと心に願つて居たのでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
寧子は起って、塗骨ぬりぼねの障子の腰にひざまずき、一尺ほどそこを開けた。なお春の夕ともいえぬ寒さなので、老母が襟をすくめもせんか——と、流れ入る冷えを怖れながら
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷たい扇子の塗骨ぬりぼねが、権六の首すじをくすぐるように、軽くたたいた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)